先回のページからご覧ください。 吹きずさむ風と,それに乗って聞こえるコヨーテの遠吠えに,安宿の鎧戸がギシギシと震えた。荒野を渡る風が遥か彼方の山のそれを運んで来る。「テキサス州はアメリカより広いんだぜ。」カウボーイのジョークを思い出した。「連邦保安官テキサスレンジャー」聞こえはカッコイイが世界で一番厳しい職業だ。 10マイル四方に俺しかいなくなったと思ったのは間違いだったようだ。蹄鉄をつけた数頭の馬の足音が聞こえてきた。慌ててピースメーカーのリロードを済ませると,多人数相手の場合に必要なダブルハンド用51ショーティを荷物の中から引っ張り出し,ちょいと前に付けたプライマーの具合を確認する。 「やっぱり仲間がいやがった」誰に言うとも無く呟いた。数分前に出来上がった死体が2つ床に転がっている。 最近この辺で旅商人や駅馬車が襲われて消息不明になる事件が横行している。その犯人達の根城がこの宿らしいと当たりをつけた訳だが,ここにいたのは,親父と昔は美人ネエチャンの2人だけだった。こいつは別件かと思ったときに、仲間と思われる数頭の馬が近いて来る。ここが一連の事件の舞台であることを確信した。 宿屋の主人の皮をかぶった強盗が床に横たわり,光の消えたうつろな眼で俺を見ている,ぽかんと開けた口が何か言いたそうだ,眉間の穴の恨み言だろうか,コワイコワイ。 ローラと名乗ったネエチャンバアチャンが事切れる前に,俺の腕の中で「あんた,よく見りゃいい男じゃんか」と咳き込みながら,血の泡のルージュを引いた唇でそう言って息絶えた。仲間の情報は取れなかったが,その憎まれ口が「仲間が仇を取ってくれるさ」と言っている様なものだった。 急いで一階に駆け降りた。表のドアが見渡せる場所に陣取る事にした。ここなら薪ストーブがバリケードにできる。背後にレンガ造りの煙突があり,警戒する方向を正面だけに集中できる。外では冷えた空気がざわついて,数人のうごめく気配を感じる。 入り口横の窓から,テンガロンハットがひょいと現れ内部を覗き込むと「ジョンどうした,ローラいないのか!」と声をかける。俺はその返事の代わりにピースメーカーの一撃で答えた。テンガロンハットに命中。ビクリと動いたが,吹き飛ばなかった。ドサリと崩れる音がした。どうも中身が入っていたようだ。表の馬が慌しく嘶く,数秒の間があってからドアと窓が,外からの銃撃で穴だらけになり,粉砕された木片が宿屋の中に舞い散る。あと3人だ。正確に表現すると18発くらいの銃声が聞き取れた。しかしフォーーメーションがなっていない。外から見当を付けて撃ち込むだけだ。さすが田舎の強盗団だ。頭の回転がよくないのか,抵抗しない獲物だけ狙う,不意打ち専門の汚い奴らかだ。 分かりやすいパターンだ。奴らの作戦は無いに等しい。撃つだけ撃って今はローディング。一発お返しすれば又ありたけぶち込んでくる。こちらが一発も撃たなければ、ドアの裂け目から、誰かが様子を覗きに来るはず。俺は51ネービーを右手に持ち替えた。ドアの隙間の光が何かにさえぎられた。パウダーを目いっぱい詰めた51ネービーはドアごとぶち抜いた。吹き飛ばされた体が落ちる音を聞いた。窓にチラリと何かが見えた。その辺りにドンドンドンと横に線を引いた。豪快な発砲音に鼓膜がキンキンと脈打ち、周囲の音がぼんやりとしか聞こえなくなったが、ギャウという声がしたようだ。もう一人いるはずだ。窓に近寄ると、小さな悲鳴が遠のいていく。ああ今度は逃げるだけか。馬に乗ることも無く、ただ走って逃げる。条件が悪くなると銃を構えることもしなくなる。窓越しにピースメーカーで狙いをつけ、引き金を絞った。逃げる男は走りながら崩れた。こんな田舎じゃ医者も間に合わんな,牧師は呼んでやるよと呟いた。暮れ行く荒野に静寂が支配していく。『物語は国際出版月刊GUN誌に入稿した作品 であります。GUNの知識満載の月刊GUN誌、是非一度ごらん下さい』
(2008.4.20[Sun]) |